原子力規制庁原子力防災課
(平成25年7月19日作成)
(平成25年10月9日修正)
1. はじめに
この解説書は、地方公共団体の職員等を対象に原子力災害対策指針に示された安定ヨウ素剤に係る運用についての具体的方策を示すため、原子力規制庁がとりまとめたものである。付属資料には記載内容の技術的背景を示した。地方公共団体は、原子力災害対策指針及びこの解説を踏まえ、地域の実情に即した地域防災計画に基づく実効性のある対策を講じる必要がある。また、今後、原子力災害対策指針及びこの解説書等の改定に伴い、その対策を見直す必要性が生じることも考えられる。
2. 安定ヨウ素剤の予防服用
運転中や停止直後の原子力発電所等は、事故が生じた場合、放射性ヨウ素を含む核分裂生成物を環境中へ放出することがある。核分裂生成物のうち放射性ヨウ素が、呼吸や飲食物を通じて人体に取り込まれると、甲状腺に集積し、放射線被ばくの影響により数年~数十年後に甲状腺癌等を発生させる可能性がある。
この甲状腺被ばくは、安定ヨウ素剤を事前に服用することにより低減することができる(詳細は付属資料Cを参照)。安定ヨウ素剤とは、放射性でないヨウ素を内服用にヨウ化カリウムのような形で製剤化したものである。放射性ヨウ素が体内に取り込まれる前に、安定ヨウ素剤を服用すると、血中の安定ヨウ素濃度が通常以上に高くなり、甲状腺ホルモンの合成が一時的に抑えられ血中から甲状腺へのヨウ素の取り込みが抑制される。また、血中のヨウ素濃度の大半を安定ヨウ素で占めることにより甲状腺への放射性ヨウ素の到達量を低減させることができる。
ただし、安定ヨウ素剤は、放射性ヨウ素による内部被ばくに対する防護効果に限定されることから、避難や屋内退避等の防護措置と組み合わせて活用する必要がある。このとき安定ヨウ素剤の服用は、原則として他の主たる防護措置に対して従たる防護措置となる。また、放射性ヨウ素が体内に取り込まれた後に安定ヨウ素剤を服用しても効果は極めて小さくなるため、適切なタイミングで速やかに住民等に安定ヨウ素剤を服用させることが必要となる。このため、安定ヨウ素剤の備蓄や事前配布、緊急時の配布手段の設定といった平時からの準備が必要となる。他方、副作用の可能性があるので留意が必要であり、具体的には、安定ヨウ素剤の服用不適項目に該当する者(以下「服用不適切者」という。)や慎重投与の必要性がある者(以下「慎重投与対象者」という。)の事前把握等に努めなければならない。
現在、放射性ヨウ素による甲状腺の内部被ばくを予防・低減するための医薬品として国内で承認・市販されている安定ヨウ素剤には丸剤と粉末剤がある。現在利用できる丸剤は、1丸中にヨウ化カリウムを50 mg含んでおり、3歳以上の者で丸剤服用が可能な者はこれを利用できる。また、粉末剤は3歳未満の乳幼児やそのほかの丸剤服用が困難な者を対象に、水に溶解する等により液状に調製した上で、適切な量の安定ヨウ素を服用するために用いることができる。
http://www.nsr.go.jp/activity/bousai/iodine_tablet/data/youso_chihou.pdf