3.11事故以降の放射線防護

Paul Jobin/山崎 精一訳

Jobin-Ohara_Journal_311事故以降の放射線防護-libre

【特集】原発と社会運動/労働運動

はじめに
1 3. 11事故以降の福島の労働者たち
2 経営手法としての放射線防護
3 職業病の重要な事例
4 疫学と原子力村内の緊張関係
結論:「低線量」被曝の長い歴史の中の一つの世界的事件

はじめに

福島原発事故(これ以降3.11と言う)は50年代半ばから続く低線量被曝が人体の健康に及ぼす有害な影響に関する論争を再燃させた。3.11以降日本の市民団体と労働団体は福島第一の事故処理と福島県での「除染」に雇用されている労働者の権利を守るために厚生労働省と交渉してきた。現在の労働条件に対する批判をより強固にするために,その活動家たちは既存の疫学調査では安全閾値を認めていないことを指摘しており,またその多くは職業上の被曝だけではなく住民全体に対する放射線防護の現行基準を批判している。 原発労働者に関連する主要な疫学研究の執筆者たちは,その研究結果は100ミリシーベルト未満の被曝による危険を過小評価するように解釈することはできないと,質問に対して回答している。現行の放射線防護基準に関しては,疫学に内在する認識上の制約を強調し,国際原子力機関のような組織が危険性を過小評価するように調査結果を発表する傾向があると指摘している。日本政府の専門家と活動家との間の解釈の対立は,したがって,疫学と放射線専門家の社会の中での世界レベルのより大きな議論を反映しているのである。 この議論は低線量被曝を巡る長期間の論争,とりわけスリーマイル島とチェルノブイル事故以後の発展との関連で検討されなければならない。例えば,この二つの事故が現行の枠組みを規定した国際放射線防護委員会の1990年の基準改定を引き起こしたのか? 現行基準の改定を将来にもたらすような新しい状況を3.11がどの程度生み出したのだろうか? 本稿の最初の部分は日本の原発下請労働者について2002年から始めた研究の追跡調査であり,その依拠しているものはほとんどの職業上の危険を見えなくしている構造上の支配に対して批判的に取り組む古典的な労働社会学(Thébaud-Mony 2009;Daubas-Letourneux 2009;Jobin 2009)と労働問題,とりわけ原子力産業(Hecht 2012がモデル)の労働問題に関心をはらう科学史および科学社会学の一部の流れである。本稿の最後の部分は疫学と放射線専門家の社会の中の緊張関係と実際の疫学に存在する認識上の制約に焦点を当てる。3.11以降に取り組んだ研究のこの部分はBoltanski & Thévenot(1991/2006)が発展させた実践的社会学と同時に科学社会学の古典的研究に依拠している。

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2/2 : http://echoechanges-echoechanges.blogspot.jp/2014/06/11-22.html?m=1