福島県内の避難指示 再来年までに解除で調整

原発事故に伴い福島県内に出されている避難指示について、政府が、遅くとも再来年の平成29年3月までに放射線量が高い帰還困難区域を除いてすべて解除する方向で、地元の自治体と調整していることが、関係者への取材で分かりました。解除にあたっては、避難による精神的な損害の賠償金額の増加も検討されています。
福島第一原発の事故では、合わせて11の自治体の8万人余りを対象に避難指示が出されましたが、事故から4年がたった今もこれまでに解除されたのは、田村市都路地区と川内村の一部にとどまっています。
これについて、政府は、長期化する避難によって、ふるさとへの帰還を諦める人が増えるなど、復興の歩みを遅らせる要因にもなっているとして、遅くとも事故から6年後となる再来年の平成29年3月までに、帰還困難区域を除いてすべて避難指示を解除し、帰還を希望する人が自宅に戻れるようにする方向で、地元の自治体と調整していることが関係者への取材で分かりました。
ただ解除を巡っては、放射線量が十分に下がっていないという不安に加えて、指示が解除されると、住民に支払われる1人当たり月10万円の精神的な賠償金が1年後に終了するという今の制度への不満を持つ人も少なくありません。このため平成29年3月よりも前に避難指示が解除されても、平成29年3月に解除されたものとして賠償金を受け取れるよう賠償の増額も検討されているということで、懸念を払拭(ふっしょく)し避難指示の解除を進めたい考えです。
この解除が実現すれば、自宅に戻ることのできる対象の人は、現在の600人余りから5万5000人に一気に増えることになります。

避難指示解除の条件と事例

東京電力福島第一原発の事故に伴う避難指示を解除するのは政府の原子力災害対策本部で、解除の条件は、年間の被ばく線量が20ミリシーベルト以下であることを前提に主に3つです。
まず▽電気・ガス・水道などのインフラや、医療・介護・商店など、生活に関連するサービスが復旧すること、▽子どもの生活環境を中心に除染作業が十分に進むこと、そして▽県・市町村・住民との十分な協議を行うことです。この条件を満たしたうえで、住民が帰還する準備を進めるための自宅での宿泊が数か月間、特別に行われたあと、地元の市町村長の同意を得て解除されます。
これまでに避難指示が解除されたのは▽去年4月の田村市都路地区、▽去年10月の川内村の一部だけです。避難指示の対象となったおよそ8万人のうち、解除された地域の住民はおよそ600人にとどまっています。
この2つの自治体に続いておよそ7500人が避難している楢葉町では、先月6日から3か月間、帰還の準備を進めるための宿泊が始まっていて、3番目に避難指示が解除される自治体になるとみられています。ただ、それ以外の自治体では、具体的な見通しは立っていません。

避難指示解除でも戻らない人も

今回検討されている方針は、帰還を希望する人が自宅に戻れるようにするためのものですが、解除されても帰還をためらったり、ふるさとに戻らず移住を決めたりしている人などが多いのも現状です。
これまでに国の避難指示が解除されたのは、田村市都路地区と川内村の一部で、都路地区で自宅に戻った人は、ことし2月末現在、58世帯146人と全体の42%余りにとどまっています。解除から半年の川内村も帰還率は4%と伸び悩み、解除されてもすぐに自宅に戻ることにはなっていません。
復興庁が平成26年度、避難区域を抱える原発周辺の7町村の住民を対象に行った調査によりますと、回答したおよそ1万8000人のうち、「戻らないと決めている」と答えた人は全体の45%余りの8000人余りに上りました。自宅に戻らない背景には、事故前に住民が利用していた商業施設や病院が今も避難区域にあり、生活の不便さが解消されていないことや、避難生活の長期化によって子どもが通う学校がある避難場所が生活の拠点となっていることなどがあります。
帰還を進めるには、金銭面だけでなく、放射線量の低減や、インフラの整備など、住民が安心して暮らせる生活環境を充実させることも課題となっています。
5月13日 13時33分 NHK
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150513/k10010078001000.html