東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議(以後専門家会議)が平成25年11月に設置され、月1回の会議が開かれてきました。第12回目となる平成26年10月20日の会議で、これまでの議論をとりまとめた中間とりまとめ(叩き台)が配布されましたが、記載された内容やその基本的方向は、低線量被ばくの健康影響を過小評価するものであり、住民の要望や、専門家の意見を十分に反映したものとは到底言えません。
ヒューマンライツ・ナウは、社会的責任を果たすための医師団、核戦争防止国際医師会議ドイツ支部、市民科学者国際会議と共同で、「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」中間とりまとめ案に対する提言書を同専門家会議の委員と事務局、環境大臣に送付しました。
全文は下記をご覧ください。
こちらからダウンロードも可能です→[専門家委員会中間とりまとめ案に関する提言書.pdf]
また、参考資料として同封したキース・ベイヴァーストック氏の記者会見時のテキストもこちらからダウンロードいただけます→[日本語訳 キース記者会見用テキスト.pdf]
環境大臣 望月 義夫 様
東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議
委員各位
2014年11月21日
「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」中間とりまとめ案に対する提言書
ヒューマンライツ・ナウ
社会的責任を果たすための医師団
核戦争防止国際医師会議ドイツ支部
市民科学者国際会議
東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議(以後専門家会議)が平成25年11月に設置され、月1回の会議が開かれてきた。第12回目となる平成26年10月20日の会議で、これまでの議論をとりまとめた中間とりまとめ(叩き台)(資料2、以下「中間とりまとめ案」という)と、中間とりまとめに向けた論点整理等(線量評価部分以外)(資料3)、中間とりまとめに向けた線量評価部分の要点(修正案)(資料4)が配布された。
上記の中間とりまとめ案および付属資料はまだ議論・作成途上のものと認識しているが、これら文書に記載された内容やその基本的方向は、低線量被ばくの健康影響を過小評価するものであり、住民の要望や、専門家の意見を十分に反映したものとは到底言えない。
専門家会合には多数の専門家がヒアリングで発言し、低線量被ばくの健康影響について知見を明らかにしている(本文のほか、別紙参照)にも関わらず、ことごとくその発言を無視したとりまとめになろうとしていることは極めて問題というべきである。
また、中間とりまとめ案および付属資料の内容は、住民の健康に対する権利を保障するという人権の観点が欠如しており、2013年5月に国連「健康に関する権利」特別報告者アナンド・グローバー氏が国連人権理事会に提出した報告書 中の勧告を全く無視している。
上記の知見や報告書を無視する一方で、上記文書はUNSCEAR2013年報告を多数回引用し、同報告に依拠している。しかし、UNSCEAR2013年報告の信用性には重大な疑問が示されており、日本の市民団体および世界の科学者団体が、抜本的な的な見直しを求めている 。
原発事故の影響を受けた地域住民への健康リスクを把握するには、放射線防護や公衆衛生に詳しい科学者や医師団体によるUNSCEAR報告書の批判的な分析が公表されており、本意見書の署名者である社会的責任を果たすための医師団(PSR)、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)ドイツもこれに加わっている。そこで専門家から提起された論点にも注目し、より健康に慎重に配慮した立場が取られるべきである 。
さらに、本会議には他の省庁とりわけ文科省、厚労省、内閣府の参画がないことは、子どもの権利、健康に対する権利、広域に行政サービスを受ける権利への配慮がないことの表れともいえる。
専門家会議の趣旨である「国として健康管理の現状と課題を把握し、そのあり方を医学的な見地から専門的に検討」し、「放射線による健康への影響に関する調査等に関し、必要な施策を講ずる」ために、専門家の意見を誠実に反映し、国連グローバー勧告に基づき、人権の視点に立った健康施策の推進を行うべきである。
[1] 年間被ばく線量100mSvという基準値について
中間とりまとめ案は、100mSv以下の被害の健康影響について、甲状腺がん以外は考慮しないとの姿勢を強調しているが、これは、低線量被ばくに関する国際的な到達点に背き、国連グローバー勧告および専門家の意見に反するものである。
まず、中間とりまとめ案3頁は、「専門家会議において被ばく線量に基づく住民の健康リスクを検討するにあたっては、ICRP が「現在の科学的知見に照らして妥当性がある」としている LNT モデルを採用することとした」とするが、実際にはLNTモデルを全く理解していない。
例えば、中間とりまとめ案3頁には、「原爆被爆者の健康影響調査の結果から、固形がんによる死亡リスクと被ばく線量の関係には、約100mSvを境界として、より高い被ばく線量では直線的な関係が見られる。」という。
しかし、放射線影響研究所が広島・長崎の原爆被害者の1950 年から2003 年までの追跡結果をまとめた最新のLSS(寿命調査)報告(第14報、2012年) によれば、全ての固形がんによる過剰相対リスクは低線量でも線量に比例して直線的に増加していることが指摘されている。この報告の重要性は100mSv以下の低線量でも健康影響に直線的な増加がみられることにある。
次に、中間とりまとめ案5頁は、UNSCEAR2013報告の「概要」として、「LNTモデルにおいては、推計された被ばく線量において、がんのリスクが若干上昇することが示唆されるが、日本人の生涯にわたる自然発生によるがんの罹患リスクと比べ小さく検出できないと考えられる。」と記載し、この記述の後に挿入される文書とされる「論点整理」(資料3)の3頁は、「およそ100mSvを下回る低線量被ばくにおける健康リスク評価においては、不確実さが大きく、また避けられないため、絶対数では評価しない」としつつ、「小児の集団では、今後甲状腺検査を実施し見守っていく必要がある」とするUNSCEARの評価について、「専門家会議はこうした評価に同意する。」と記載している。
しかしながら、ICRP(国際放射線防護委員会)が支持する「閾値なし直線モデル」(LNT)は、100mSv以下の低線量被ばくについても直線的な健康リスクが認められるというものであり、LNTモデルは小児甲状腺がんに限定したリスク評価でないことは明らかである。このような取りまとめは、LNTモデル自体を故意に歪めている。
また、このような取りまとめは、第四回専門家会議時の崎山比早子氏の見解を無視するものである。元国会事故調委員である崎山氏は第四回専門家会議ヒアリングで発言し、国会事故調報告書を資料として提出した 。同資料・国会事故調報告書には、国際的に合意されたLNTモデルが正しく説明されている。日本人の自然発生によるがんの罹患リスク30%を前提とすると、20mSvであれば、リスクは1000人中1人の増加を示しており、1000人中がん死を300人から301人に増やすものとなると指摘されている。LNT仮説に基づく国会事故調報告書の結論は、「100mSv以下でもリスクはあるとして防護することが住民の健康を守るためには必要である」というものである。
2013年に発表されたグローバー勧告では、科学的根拠に依拠し「リスク対経済効果の立場ではなく、人権を基礎において策定し、年間被ばく線量を1mSv以下に低減すること 」が明確に求められている。こうした根拠と勧告に基づき、低線量被ばくの健康影響を重視する立場に立つべきである。
[2] 甲状腺がん以外の健康影響に関して
中間とりまとめ案は、甲状腺がん以外の健康影響を無視する姿勢を採用しているが、これは見直されるべきである。
中間とりまとめ案は、「WHO 報告書や UNSCEAR2013 年報告書と同様、専門家会議の見解として、白血病、乳がん、固形がんについて増加が観察されるとは予想されない。」「不妊、胎児への影響及び遺伝的影響については、専門家会議は、WHO 報告書や UNSCEAR2013 年報告書での評価と同様、予想されないと判断する。」として、甲状腺がん以外の健康影響を否定している。
しかしながら、中間取りまとめ案が依拠するWHO2013年報告は、福島原発事故の後1年間に乳幼児が線量12~25mSvを浴びた地域では、生涯の発がんリスクが男性の白血病で7%、女性の甲状腺がんで70%、乳がんで6%、他の固形がんで4%上昇すると予測しており、3ないし5mSvの地域でもその3分の1ないし4分の1の健康影響を予測している。中間とりまとめ案の引用は不正確である。
一方、遺伝的影響に関し、中間とりまとめ案は4頁において、「なお放射線を生殖器(精巣、卵巣)に受けて生じる遺伝的影響については、実験動物や昆虫を使った研究では見られているが、広島・長崎の原爆被爆者に関するこれまでの調査から、人間においては確認されていない。そのため、遺伝的影響の発生増加は予想されない。」とWHO報告書について記載する。しかしそもそも「福島第一原発事故で放出された放射性セシウム(137Cs)の量は、広島に投下された原爆の168倍であったと推測 」されているため、原爆被爆者との比較が妥当であるか疑わしい。
また、放射線による健康影響の疫学調査としての広島長崎の被爆者寿命調査は世界的に信頼されてはいるが、これは原爆投下後5年後から調査開始されたものであり、その間に放射線感受性の高い人は亡くなっている可能性があるので、選択バイアスがかかっているという点は否定できない。このため、この調査の疫学調査としての整合性が疑われる 。
さらに、中間とりまとめ案5頁は、UNSCEAR2013報告の概要として、「不妊や胎児への障害などの確定的影響(組織反応)は認められず、白血病、乳がん、固形がんについても増加が観察されるとは予想されない。また遺伝性の影響の増加が観察されることも予想されない」と引用する。しかし、UNSCEAR2013パラグラフ178 には、「少数の妊婦の子宮吸収線量が約20mGyであったかも知れず、その場合胎児の白血病リスクが倍増する可能性は除外できない。」と記述されていることに言及していない。
﨑山氏は、第四回専門家会議のヒアリングにおいて、がんの原因になりうるDNA損傷はどんなに少ない放射線量でも生ずるため、放射線に安全量はないと強調し、100mSv以下の低線量被ばくにおける甲状腺以外のがん(固形がん、白血病も含む)の増加に関し、様々な疫学研究を指摘している 。
近年公表された、オーストラリアでなされたCT スキャン検査(典型的には5~50mGy)を受けた若年患者約68万人の追跡調査の結果、白血病、脳腫瘍、甲状腺がんなどさまざまな部位のがんが増加し、すべてのがんについて、発生率が1.24倍(95%信頼区間1.20~1.29倍)増加したと報告されている 。また、イギリスで行われた自然放射線レベルの被ばくを検討した症例対照研究の結果、累積被ばくガンマ線量が増加するにつれて、白血病の相対リスクが増加し、5mGy を超えると95%信頼区間の下限が1倍を超えて統計的にも有意になること、白血病を除いたがんでも、10mGy を超えるとリスク上昇がみられることが明らかになった 。
専門家委員会は、疫学的に明らかになっている低線量被ばくの危険性、特に甲状腺がん以外のリスクに真剣に向き合うべきである。
[3] チェルノブイリ事故を比較基準としてリスクを過小評価する問題について
中間とりまとめ案5頁は、UNSCEAR2013報告の「概要」として、「チェルノブイリのように甲状腺がんが多数増加する可能性を考慮に入れる必要はない。」などと記載する。資料3ではさらに、「先行検査で発見された甲状腺がんについて、原発事故による放射線被ばくの影響ではないかと懸念する声もあるが、以下の点から原発事故由来のものとは考えにくい」とし、「チェルノブイリ原発事故で甲状腺がんの増加が認められるようになったのは事故から4~5 年後のことであり、事故後約3 年の時期に実施された先行検査とは時期が異なる(UNSCEAR2008 年報告書)」、「福島第一原発事故後の住民における甲状腺の被ばく線量は、チェルノブイリ事故後の線量よりも大幅に低いと評価されていること(UNSCEAR2013 年報告書)」等の理由をあげている。
しかし、グローバー調査報告書が正しく指摘する通り、「チェルノブイリの原発事故に関する重要な詳細情報が、1990年まで公表されなかった 」ことから、「チェルノブイリに関する研究は、放射能汚染及び被ばくの影響を十分に認識していない可能性がある 」。また、チェルノブイリ事故と福島原発事故では避難政策が大きく異なることもつけ加えなければならない。
また、チェルノブイリ原発事故後の被ばくによる健康影響に関する各種報告書に対しては、様々な疑問も示されている。従ってチェルノブイリの事例をもって、福島原発事故後の健康リスクを否定するのは合理的ではない。
[4] UNSCEAR報告書への過剰な依存 -世界の専門家が指摘するUNSCEAR報告書の信頼性の欠如
中間とりまとめ案が、UNSCEAR2013年報告を多数回引用し、同報告に過剰に依存しているのは、一見して明白である。
しかしながら、UNSCEAR報告書そのものに対する強い批判は無視されている。
核戦争防止国際医師会議(IPPNW)のドイツ支部、および米国支部である社会的責任を果たすための医師団 (PSR)など19団体が公表した「UNSCEAR報告書『2011年東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響』の批判的分析」 は、「UNSCEAR報告書内に示されている日本国民の生涯集団線量にもとづくと、福島原発事故の放射能による甲状腺がんの過剰発生件数は、日本でおよそ1000件、他のがんの過剰発生は4300から16800件と予想される。」としており、原発事故による甲状腺がんや他のがんの過剰発生について強く懸念している。また、「UNSCEARは非がん疾患と遺伝的影響を無視している」「胎芽の放射線への特別な脆弱性が考慮されていない」「UNSCEARのソースターム推定値の妥当性は疑わしい」などとUNSCEARの報告書の科学性を痛烈に批判しており、UNSCEAR は2013年報告書の中で福島原発事故の惨事の程度を過小評価しているとしている。
UNSCEAR報告書を批判するのはPSRやIPPNWドイツ支部だけではない。
公衆衛生の観点から放射線防護および原子力緊急対策の分野に40年以上の職業として関わってきた経験があり、WHO世界保健機構の放射線公衆衛生地域顧問を務めた経験もあるキース・ベーヴァーストック博士は、福島原発事故に関するUNSCEAR 2013年報告書に対する批判的検証を2014年11月発行の岩波書店誌「科学」に発表し、本年11月20日に記者会見を行った。
同博士はWHO在籍中に特にベラルーシにおけるチェルノブイリ原発事故後の甲状腺がんの増加をいち早く発見し世界の注目を集めたことで知られるが、適時性、透明性、包括性、独立性、科学的妥当性の点から、UNSCEAR報告書を批判している。同博士は、「事故初期の線量推定に極めて重要なのは、いわゆるソースタームである。」「入手可能ないくつかのソースターム推定値の中から UNSCEAR が選んだのは、日本原子力研究開発機構(JAEA)が公表した推定値である。」「JAEA のソースタームは、放射性物質の放出推定値の中で最も数値が低いもののひとつだった。たとえば、JAEA の放射性セシウム 137 の放出推定値は、とある国際グループの放出推定値の 6 分の 1 である。」として、UNSCEARの線量推計の信頼性が非常に低いと批判している。
さらに、同博士は、「UNSCEAR 報告書の 74 ページ目に、事故後 1 年半の作業員の線量分布が示されている。被ばく線量が 10 mSv を超える約 10,000 人の作業員の合計線量のおおよその推定では、標準的なリスク係数を用いると、約 50 症例のがんの過剰発生が予測される。UNSCEAR は、事故後 1 年目の日本国内の公衆集団線量を 18,000 人・Sv と推定しているが、これから予測されるのは、2,500 から 3,000 症例のがんの過剰発生である。放射線被ばくによるリスクの最良の知見に基づくと、これらは、『予想されない』がんではなく、『予期される』がんである。」と指摘する。
同博士は、「UNSCEAR報告書は科学的に構成なものとは到底言えず、さらには真の意味で科学的でさえない」ため「科学的厳密さをもって作成された、信頼できるリスク評価ではないことは間違いない」と結論づけている 。
しかしながら、同報告書への信用性については、日本政府とUNSCEARの親密な関係を考慮に入れて、慎重に吟味すべきである。すなわち、UNSCEAR2013年報告書の概要と原案が発表された2013年半ばから最終版が発表された2014年4月の間に、日本政府はUNSCEARに一億円以上の寄付をしていることが明らかになっている 。
[5] 健康管理調査の抜本的な改革について
現在、原発事故の健康影響に関連する健康モニタリング・システムとしては、福島県県民健康調査だけが行われており、中間とりまとめ案9頁が指摘する通り、「近隣県については、一部の市町村での独自の対応を除き、福島県で実施されているような県を単位とした特別な対応は行われていない」という状況である。
さらに、福島県内においても、避難区域に居住していた住民にのみ詳細な調査が実施されるに過ぎず、それ以外の県民に対する調査としては子どもの甲状腺検査のみである。
国・福島県は、避難地区外や県外の住民のがん等罹患リスクを軽視し、住民の健康に対する権利を無視し続けてきた。
この点、中間とりまとめ案は、こうした現状を改善しようとする提案は全く記載されず、「WHO 報告書や UNSCEAR2013 年報告書でも近隣県に対する特別な対応の必要性は指摘されていない」と無批判に紹介する。さらに資料3では、「改めて県民健康調査の意義を捉え直し、改善に向けた調整を図るべき時期に来ている。」と記載しつつも、結局明確な改革を打ち出していない。
第4回専門家会議のヒアリングで崎山氏は、100mSv以下の被ばくでどれだけがん死(甲状腺以外の固形がん、白血病も含む)が増加したかという研究に言及されており 、これら研究を真摯に受け止め、小児甲状腺以外の検査を抜本的に拡充する立場に立つべきである。
この点については特に被ばくの影響を受けやすい子どもを対象とした健康調査は「甲状腺検査に限定せず、血液・尿検査を含むすべての健康影響に関する調査に拡大すること」 がグローバー勧告によって、明確に求められている。
第8回専門家会議のヒアリングで菅谷氏は汚染地の子ども達への対応の仕方などをあげて、健康管理のあり方に関する意見として「非がん性の疾患、がんではないいろんな問題が出ていますから、こういうようなところにもっと視点を当てていかないといけなんじゃないか」と述べている。
また、第7回専門家委員会の石川委員の発言には、「健康県の概念を尊重し長期的かつ幅広い視点からの健康支援体制の構築をお願いしたい。」「いろいろな病気も含めて、要するに検診できる体制を構築していくことが一つ、安心を醸成していくことになる。」「低線量被ばくについてはそこはかとなく不安があり、だれもそれについてきちんと解説できないのだから、検診という形で見守っていきますよ、補償しますよという対応をとるしかない。」 とも指摘されている。
子ども以外でみてみると、第8回専門家会議のヒアリングで木村氏は、自身のベラルーシでの調査の経験から「子どもたちだけではなくて、これは子ども被災者支援法ですが、この場で言いますと、大人たちへの検診も充実化しなければならない。」「病院にかかった病歴とか、そういった病院にかかった履歴などをきちんと残していくシステムが、この国にはなされておりません」と指摘している。
しかしながら、中間とりまとめ案には、専門家から指摘された健診の拡充は反映されていない。
最後に、中間とりまとめ案8頁は、「福島県における健康調査等のあり方は、一義的には福島県『県民健康調査検討委員会』が検討すべき内容である。」とされているが、この解釈は誤りである。
原発事故の被害者の被ばくの責任は国と東電にあり、被害者が健診を望む限り、応える義務が国と東電にはある。このことに関して、第8回専門家会議では木田氏が「福島原発災害後の被災者の健康支援の現状と課題」を説明する中で、「健康管理は国の直轄事業」であると述べ、またこの会議では、菅谷氏もベラルーシの健康管理費用は全て国家負担であることを述べている。
政府は人びとの権利、とくに日本国憲法25条でも保障されている「健康に対する権利」を保障する責務があり、人権の視点から、この責務が果たされなければならない。
[6] 現状
平成26年8月24日、福島県「県民健康調査」検討委員会 は、福島県内外民を対象に行ってきた甲状腺細胞診結果をその公式ホームページ上で公表した 。
この資料によれば、平成26年6月30日の時点で、穿刺吸引細胞診を行った受診者のうち、104 人が「悪性ないし悪性疑い」の判定となっていたことが明らかとなった。同委員会によれば、104 人のうち、これまでに 58 人に手術が行われ、手術後の病理診断の結果、1 人が良性結節、57 人が甲状腺がんと確定診断された。
104 人の性別内訳は男性 36 人、女性 68 人で、二次検査時点での年齢は 8 歳から 21歳(平均年齢は 17.1±2.7歳)、最小 5.1mm から最大 40.5mm(平均腫瘍径は 14.2±7.5mm)であった。
平成26年11月11日、福島県民健康調査「甲状腺検査評価部会」において、104例(註:実際には良性結節と確定診断された1例を除いた103例)の「悪性ないし悪性疑い」例がすべて甲状腺がんだとすると、罹患率データに基づく累積罹患リスクを用いて推定された有病率で比較して通常の約60倍であり、これには「過剰発生」か「過剰診断」かのどちらかしか理由がなく、スクリーニング効果だけで解釈することが困難であると確認された 。
同評価部会で福島県立医科大学の鈴木眞一氏が発表した「手術の適応症例について」 によると、手術後にがんと確定された57例中、同医大で手術が行われた54例では、乳頭癌が52例で低分化癌が2例、そのうち腫瘍径10 mm超えは42例(78%)で、リンパ節転移は術前診断で17例(31%)が陽性、術後病理診断では74%が陽性であった。
さらに乳頭癌2例に多発性肺転移が認められた。術前腫瘍径10 mm以下の微小癌12例のうち、3例にリンパ節転移か遠隔転移が疑われ、残りの9例中7例は気管や反回神経への近接か甲状腺被膜外への進展が疑われた。
このほか、2例は非手術経過観察が勧められたが本人の希望で手術となり、その他の52例は通常の手術適応(術前腫瘍径 10 mm以上、リンパ節転移、甲状腺被膜外浸潤、遠隔転移、反回神経や気管への近接)で行われている。最初の2例はともかく、残りの52例が「過剰診断」と呼べるかどうかは極めて疑わしい。がんと確定された57例だけをとっても、何らかの要因による「過剰発生」と評価せざるを得ず、その要因として福島原発事故による被ばく影響は真剣に考慮されなければならない。
初期被ばく線量の不確かさと近隣県でのホットスポットの顕在などを考慮すると、甲状腺検査の拡充と甲状腺検査以外の健康診断の拡充は必須である。
[7] 国際人権基準および国連グローバー勧告
日本が批准する国連社会権規約第12条は「『健康に関する権利』に関し、「すべての者が到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利」の保障とその充足のための国の責務を定める。政府はこの国際基準を順守すべきである。
健康に対する権利に関する社会権規約委員会一般的意見 「健康に対する権利は、到達可能な最高水準の健康の実現のために必要なさまざまな施設、物資、サービス及び条件の享受に対する権利として理解されなければならない。」とし、健康に対する医療・保健サービスが利用可能であること、アクセス可能であることが必要とされ、アクセスの可能性は無差別に、物理的・経済的にアクセス可能であること、さらに健康に関する情報へのアクセス権が必要とされている。日本政府はこの国際基準に従わなければならず、国・東京電力の責任で起きた原発事故の健康リスクから人々を守り、希望する人には無料で必要な検査がなされる体制を整えるべきである。
国連「健康に対する権利」特別報告者アナンド・グローバー氏は、2012年の来日調査を受けた2013年5月に報告で、健康モニタリングについて重要な提起をしている。
・日本政府は、特別報告者に対して、100mSv 未満では発がんの過度のリスクがないため、年間放射線量20mSv以下の居住地域に住むのは安全であると保証した。しかしながら、国際放射線防護委員会(ICRP)でさえ、発がん又は遺伝的疾患の発生が、約100mSV 以下の放射線量の増加に正比例するという科学的可能性を認めている。さらに、低線量放射線による長期被ばくの健康影響に関する疫学研究は、白血病のような非固形がんの過度の放射線リスクに閾値はないと結論付けている。固形がんに関する付加的な放射線リスクは、直線的線量反応関係により一生を通し増加し続ける(48)。
・日本政府によって導入される健康政策は、科学的証拠に基づくものでなければならない。健康政策は、健康に対する権利の享受への干渉を、最小化するように策定されるべきである。放射線量の限度を設定する場合、健康に対する権利に基づき、特に影響を受けやすい妊婦と子どもについて考慮し、人々の健康に対する権利に対する影響を最小にすることが必要である(49)。
以上のとおり、低線量被ばくに最も影響を受けやすい脆弱な人々の立場に立ち、そうした人々への健康リスクを最小限にする対策が求められる。
グローバー氏の勧告はそのうえで、健康モニタリング・システムに関連して、以下のように勧告している。
78(a) 避難区域、及び放射線の被ばく量の限度に関する国家の計画を、最新の科学的な証拠に基づき、リスク対経済効果の立場ではなく、人権を基礎において策定し、年間被ばく線量を1mSv 以下に低減すること。
77. 原発事故の影響を受けた人々に対する健康モニタリングについて、特別報告者は、日本政府に対し、以下の勧告を実施するよう要請する。
(a) 長期間の、全般的・包括的な健康調査を通じ、原発事故の影響を受けた人々の健康に関する放射能による影響を継続的にモニタリングすること。必要な場合、適切な治療を行うこと。
(b) 健康管理調査は、年間 1mSv 以上の全ての地域に居住する人々に対し実施されるべきである。
(c) すべての健康調査をより多くの人が受け、調査の回答率をより高めるようにすること。
(d) 健康基本調査には、個人の健康状態に関する情報と、放射線被ばくの健康影響を悪化させる可能性がある他の要因を含めた調査がされるようにすること。
(e) 子どもの健康調査は、甲状腺検査に限定せず、血液・尿検査を含む全ての健康影響に関する調査に拡大すること。
(f) 子どもの甲状腺検査の追跡調査と二次検査を、親や子が希望する全てのケースで利用できるようにすること。
(g) 個人情報を保護しつつも、検査結果に関わる情報への子どもと親のアクセスを容易なものにすること。
(h) 内部被ばくの検査は、ホールボディカウンターに限定することなく、かつ、地域住民、避難者、福島県外の人々等、影響を受けた全ての人々に対して実施すること。
(i) 全ての避難者及び地域住民、とりわけ高齢者、子ども、妊婦等の社会的弱者に対して、メンタルヘルスの施設、必要品、及びサービスが利用できるようにすること。
(j) 原発労働者に対し、被ばくによる健康影響調査を実施し、必要な治療を実施すること。
82. 特別報告者は、原発の稼動、避難区域の指定、放射線量の限度、健康調査、賠償額の決定を含む原子力エネルギー政策と原子力規制の枠組みに関する全ての側面の意思決定プロセスに、住民、特に社会的弱者が効果的に参加できることを確実にするよう、日本政府に要請する。
現在の健康モニタリング・システムは人権の視点に基づくグローバー勧告を受け止め、まず福島県内に限らず、追加線量1mSv以上の地域に居住するすべての人に拡大すべきであり、内容は、包括的・詳細なものとすべきである。また、すべての原発労働者への詳細・継続的な健康ケア・モニタリングがはかられるべきである。
[8] 提言
1 日本政府は以上の指摘、特に現状、専門家からの警告、国際人権基準と国連特別報告者勧告を真摯に受け止め、年間線量100mSv以下の環境においても健康被害が発生するリスク、小児甲状腺がん以外にも健康被害が発生するリスクを重く受けとめるべきである。
福島県医師会副会長の木田光一氏は、被災者の不安の解消および安定した生活の実現の寄与のためには、支援対象地域は年間線量1mSv以上にするのが妥当であると述べる。
福島県医師会は、基本方針制定にあたっての提言の中で「東京電力福島第一原子力発電所事故による住民自身の健康管理は、国の直轄事業として位置づけ、被害に遭った住民自身の健康維持や健康管理を支援する支援策を講じるべき」であると提案している。これらはいずれも重要である。
現在、実施されている健康管理調査は、福島県民に限定され、その内容も、避難指定区域以外の地域住民に対しては、自記式問診票を提出するだけの行動調査(基本調査)と子どもの甲状腺検査(血液・尿検査を含まない/18歳以下に対象を限定)に限られた健康診断のみという極めて不十分なものである。このような健康管理体制は、チェルノブイリ事故後の健康診断・医療支援体制と比較しても著しく不十分なものである。
政府は、この方針を改め、
1) 追加線量年間線量1mSv以上の地域に住む/または事故当時住んでいた住民全員に対して、健康モニタリング・システムを拡充すべきである。
2) 甲状腺検査については、子どもに限らずすべての住民に実施すると共に、血液・尿検査、内部被ばく検査を含む健康診断を受ける権利を保障すべきである。そして、そのための体制整備と告知を通じて、希望者に対し血液・尿を含む包括的な検査が実施できるようにすべきである。
これら検査は、希望しない者を除き、少なくとも年1回、無料で実施すべきである。
3) これと併せて、きめ細かい被災者の心理的なケアのための体制整備も拡充すべきである。
2 次に、日本政府は、「被ばく隠し」と批難を受ける現状を真摯に受け止め、非正規労働者も含めた原発作業員全員が常時利用できる医療サービスを整えるべきである。日本医師会はそのシンポジウム報告書「福島原発災害後の国民の健康支援のあり方について」において、被災した住民だけでなく、廃炉作業員の健康支援や放射線汚染環境情報の集積、さらには緊急被ばく医療体制を整えるための人的資源育成等の、中心的機能を担うナショナルセンター設置の必要性を訴えている。
私たちはこの提案に賛同し、すべての原発労働者への無料かつ継続的な健康モニタリング・医療ケアを求める。
3 日本政府は、健康モニタリングシステムの構築・運用にかかわるあらゆる意思決定に被災者である住民と、広く社会的な問題として取り組む必要があることから社会科学者、倫理的な側面を精査する法律家、そしてこの問題に通じたNPO/NGO関係者を加え、第三者委員会による人選と相互査察を確保した上で、今後の政策に取り組むべきである。
これは、国連特別報告者から要請させていると同時に、国連社会権規約に保障された健康に対する権利の本質的内容である。政府は住民の実情や要望にかなった健康施策を推進すべきであり、そのために住民参加のシステムは不可欠である。
以 上
ヒューマンライツ・ナウ
理 事 長 阿 部 浩 己
事務局長 伊 藤 和 子
米国ワシントンD.C.
社会的責任を果たすための医師団
エグゼクティブ・ディレクター
Dr. キャサリン・トマソン
ドイツ・ベルリン
核戦争防止国際医師会議ドイツ支部
副会長
Dr. アレックス・ローゼン
市民科学者国際会議
代表 岩田渉
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別紙 専門家会議ヒアリングで発言した専門家の意見抜粋
崎山氏:この原発事故を起こした責任を問われるべき東電が何らの責任も取らず、その東電から利益供与を受けている専門家が、事故の被害者である県民や市民の健康管理のあり方などを決める審議会のメンバーになっているという異常な状態にあります。これは正していただきたいと思います (専門家会議第4回議事録より)
木村氏:(ベラルーシでの調査の経験から) ブレスト州内では、今、事故から28年たっても、いまだに甲状腺がんが上昇しているということは疑いもありません。こういったような状況の中、このブレスト州は今、人口が139万人でございます。この中で200人近い甲状腺がんが出ているということ自身が異常値でございます。
だから、こういったようなことから、この県民健康管理調査での甲状腺検診というものの充実化を図り、今後、子どもたちに対しては、きちんと毎年、甲状腺検診を行うということ。また、ベラルーシでは、危険群としては、事故当時18歳以下の人たちを危険群としましたが、危険予備軍としては、40歳以下の方々を危険予備軍として対応しております。子どもたちだけではなくて、これは子ども被災者支援法ですが、この場で言いますと、大人たちへの検診も充実化しなければならない。しかも、長期間にわたって検診をしていかなければならないであろうと。要は、4年後から甲状腺がんが出てくるから、どうのこうのというようなことや、スクリーニング効果はどうであるこうであるということを言うわけではなくて、きちんと調べていくことが一番重要ではないかと私は思っております。
皆さんにお願いしたいのは、こういった甲状腺がんの記録というものをきちんととっていく、また、外部被ばく・内部被ばくの記録もきちんととっていき、また、病院にかかった病歴とか、そういった病院にかかった履歴などをきちんと残していくシステムが、この国にはなされておりません。医師法ではカルテの保存期間は5年間です。それ以上は、亡くなったときに、その後の過去のデータを見ていくことはできません。ベラルーシでは、死んでから10年間は保存期間として残されておりますし、ウクライナは50年間の保存期間、死んでから20年というようなことも言われております。
このように個人が1枚のノートブックの形として、常にそれを管理するか、個人が保存するか、地区中央病院というようなところで保存管理されていますが、そういったようなきちんとした保存機構を充実化しなければ、今後、もし、これはスクリーニング効果でない場合に対して、どうであったかということが言われません。
また、今後、今出ている甲状腺がんの方々に対しても、あくまでもスクリーニング効果だということを、医師やその専門家の人たちが言ってしまいますが、これは公害問題等も含めて、少なくとも、こういったようなことを専門家が言い切ってしまうことで足切りとなってしまう。原爆症認定の問題やイタイイタイ病や水俣病の認定基準、そういったようなものに関与してくるということで、まず疑わしきは罰せ、これは厚生労働省でもやっています。労働安全衛生法でも言われているように、労災認定のように疑わしきは罰せというのが一番筋ではなかろうかというのが私の意見でございます。(第8回専門家会議の議事録より。)
菅谷氏:チェルノブイリ事故後の健康影響の現状、私、2年前にベラルーシへ行ってまいりましたものですから、それと、向こうの健康等に関する対策は何をしているかのということをお話させてもらいます。
1ページの下段のほうでございます。このマップはベラルーシ共和国の放射能汚染図でございまして、これは事故後10年目のセシウム137の土壌の汚染マップでございますが、私はここにあります首都のミンスクと、それから、高汚染地のゴメリと、それから、チェルノブイリ原発から90kmのモーズリというまちへ行ってきました。いずれも私が過去に住んでいたところでございます。
特に今回、私は、ゴメリのまちからちょっと北東のほうにありますが、ベトカという地区の赤色のホットスポットのエリア、更にその中の紫色の30㎞ゾーンと同じように、現在、居住禁止の区域にも行ってまいりまして、その辺の話をさせていただきたいと思います。
なお、居住禁止区域、紫のところ、これが年間の被ばく線量が5mSv以上、それから、赤のところの限界管理区域、これが1mSvを超えるところでございます。それから、また黄色のところが、これ汚染地域でありますけれども、1mSv以下でございます。
では、次のページをお願いします。これはゴメリ州のベトカ地区の赤色のところでございます。限界管理区域ですが、住民は心配しておりますけども、仕方ないということでもって今ここに住んでおります。
それから、下段のこれはさらに奥へ入りまして、いわゆる居住禁止区域のところでございます。この真ん中に2人いるのが行政の職員で、この地域を定期的に巡視しております。火事とか、あるいは、またさまざま事故等を巡視しておりますが、彼らの話では、一生懸命除染したけれども、どうしようもなく今も住めないんだということでございまして、現在はもう、除染はしておりません。今、ここには5組の老夫婦が戻られておりまして、定期的に、1週間に一遍は日常品などを販売している巡回販売というのですかね、やっております。
次のページをお願いします。ここは原発から90kmで、私がかつて半年ほどいました低汚染地域でございます。ゴメリ州のモーズリ市というところでございます。この子どもたちは少年少女音楽舞踊団の団員でございますが、この子どもたちが現在どういう状況であるかということを子どもたちのレッスンの指導者、あるいは、また、保護者等からの話を聞いてきました。
次に下段のほうでございますが、チェルノブイリ事故後の健康被害影響はどんなものであるかということで、最新のものでございますが、特に低濃度・低汚染地域における現状でございまして、これは現地のドクターからの話でございます。
一つは、やはり免疫機能が相変わらず低下しているんだということで、子どもたちも非常に感染にかかりやすいとか、あるいは、また、それ以外のこともございますが、特に上気道感染を含め、なかなか難治性であること、繰り返すということ。また最近は造血器障害ということで、貧血等が出てきているんだと、この10年間。これはいろんな原因はあろうかと思いますが、特に鉄欠乏性ということはないみたいでございますが、いずれにしましても貧血が出てきている。それから、周産期異常ということで、未熟児、早産・死産、それから、先天性異常ということで、これは次のところでもまたお話しますが、こういうことが今、増えてきているんだと。
それから、その他の健康影響ということで、これは子どもたちなんですけれども、非常に疲れやすいとか、集中力の欠如とか、体力の低下、このようなことが現在出ていると。特にこの子どもたちが、事故前の子どもたちは厳しいレッスンも耐えられたんですけれども、現在の子どもたちは途中で休まなきゃいけないとか、また、もっと以前より授業時間を短縮しているようでございますが、これがどうしてこういうふうに非常に疲れやすいか、かつての広島のぶらぶら病のような、非常に疲れやすいという、これもよくわかりませんけど、こういうことが現実にあるということです。それから、またセシウムの体内蓄積の問題等があるということです。大分、このほうの影響もとれてきたと言われておりますが、次のページをお願いいたします。
そこで、これは2年前でございますが、ゴメリ州の公的医療機関勤務医師、これは産科医の話でございます。一つは、ここに来て子どもや成人のアレルギー疾患が増えていると。例えば、喘息とか皮膚疾患などの増加。ただし、これは家族歴においては、こういうアレルギー性のヒストリーはないということでございまして、これが増加している。
それから、もう一つこれはやっぱり大きな問題でしょうけれども、胎児異常の増加ということです。(第8回専門家会議の議事録より。)
菅谷氏:福島の現在の問題に関しましては、県立医大の先生が、将来出るがんが早い時期に検査をやって見つかっているんだというふうにおっしゃっていますけれども、この辺は、僕はまだそこまで言うのは時期尚早であろう。これから長期にわたって検査をしながら判断すべきではないかなと思っておりますものですから、そこは今回の事故と関係ないんじゃないかというのはちょっと僕にとってみたら疑問であります。 (第8回専門家会議の議事録より。)
津田氏:放射線による発がんというのは閾値がないということは、1949年に決められて以来、その後、変えられてはいません。…それから、甲状腺がん以外への影響の把握をするべきだと。それから、甲状腺がん症例把握を現在18歳以下に限られていますけれども、19歳以上に拡大すべきだと思います。これは後で説明します。それから、放射性物質は福島県の県境でとまっているとは思われませんので、福島県外の住民に対して症例把握をしていく必要があります。それから、これは徹底すべきだと思いますけれども、100mSv以下でがんが出ないというような話は必ず撤回する必要があります…このような状況で、その帰還計画は延期すべきであるというふうに思われます。 事態が進行する中での情報開示を的確にやって、天気予報のように発達してきていますので、そういうように随時データを分析して、住民の協力を得られるように情報開示していく必要があります。それは住民からの信頼を得るためです。住民からの信頼をなぜ得るのかといいますと、人的被害を最小にして、経済的損失を最小にするためであります。…
自然ガンマ線による白血病とがん影響ですが、これは図を見ていただいたらわかりますように、累積ガンマ線被ばくによってが5mGyを超えますと、統計的有意差が出てくるのが観察されています。白血病を除く全がんに関しましても、15mSvの累積被ばく、15mGyの累積被ばくによって多発してくるのが分かっています。そもそも妊婦さんに対する胎児への影響というのは、1956年のこのAlice Stewartの研究から既に明らかになっておりまして、次のページ、17ページ。
世界各国で、妊娠中に放射線を浴びたために小児がんが多発するという報告は相次いでおりまして、どういうがんが多発してくるかというのは、17ページの下にまとめてあります。
最後のページです。Doll&Wakefordのことから言えることは、日本のどこの病院のレントゲン撮影室の入りロにも表示してある「妊娠している可能性がある方は、必ず、申し出てください」という表示は、これらの調査の結果から来ております。
福島県では、今もなお、妊婦さんを含む全年齢層が被ばくしている状態であるということを、きちんと考えていただきたいと思います。(同第8回専門家会議の議事録より。)