東京電力福島第一原発事故による放射線被曝の、県民の健康に与える影響を調べ、健康を維持するにはどんな取り組みが必要なのか、県内外で議論が進んでいる。3年前から実施されている県民健康調査のあり方を、県の検討委員会が一から見直す議論を始めた。県民らへの医療支援をめぐる環境省の専門家会議の議論も今月以降、山場を迎える。県民の被曝と健康への対策の現状や課題を探った。
福島第一原発事故の被曝による健康影響を調べる取り組みの中心が県民健康調査だ。2011年から県が県立医大に委託し、複数の種類の調査を国の基金で実施する。事故当時、県内にいた全県民約200万人を対象とするのは「基本調査」。事故後4カ月間の行動記録を記入してもらい、それを基に、体の外側にどれだけ被曝したかを推計する。
がんをはじめ、あらゆる疾患は、医師が診ただけでは被曝が原因かわからない。どれだけ被曝したのかが、影響の有無を判断する上で重要な情報となる。外部被曝線量の推計が、基本調査と呼ばれるのはそのためだ。しかし、「行動記録の記入が大変」「どう行動したのか忘れた」などの理由で、全県民の約26%しか受けていない。
原発作業員などの放射線業務従事者や行動記録に不備があった回答者を除いた約38万人のうち、6割は事故後4カ月間の外部被曝が1ミリシーベルト未満、99.8%が5ミリ未満だった。最高は25ミリだった。
県民健康調査のもう一つの柱は、事故当時18歳以下だった子どもと胎児、約38万5千人を対象とする甲状腺検査だ。子どもを中心に約7千人が甲状腺がんになったチェルノブイリの教訓を踏まえ、11年秋に始まった。今年3月末までに1巡目が終了。検査を受けた約30万人のうち104人が疑いも含めて甲状腺がんと診断された。
県は「事故から3年しか経っていないことなどから、これまでに見つかったがんは被曝の影響でできたとは考えにくい」とする。
被曝による甲状腺がんは、放射性ヨウ素による内部被曝が主な原因だ。放射性ヨウ素は半減期が8日と短いため、子どもたちの甲状腺被曝の実測値はほとんどない。国連科学委員会などの推計では、県内の子の放射性ヨウ素の内部被曝はチェルノブイリの10分の1以下とされる。ただし、行動次第で線量は異なるため、一人ひとりの正確な線量は不明だ。
県民健康調査では妊婦へのアンケートのほか、避難指示区域など空間線量の高かった地域の住民には、生活習慣病などに関する一般的な健診や、こころの健康などのアンケートも行っている。それらへの回答から、支援が必要と判断された人には、保健師らが電話などで連絡している。
県の検討委員会は、甲状腺検査が1巡したことや、現状では被曝の影響が見極められないとの指摘があることなどから、枠組みのあり方を一から議論する。
朝日新聞 2014年10月1日10時28分