第5回市民科学者国際会議 開催趣旨
2011年3月から現在に至るまで、東京電力福島第一原子力発電所の惨事には終わりが見えません。私たちは被ばくによる健康影響を少しでも減らしたい、できれば未然に防ぎたいと考え、対策を求めてきました。被ばくによって健康に影響があるのかどうか、あるとするといったいどのようなものであるのかは、社会の大きな関心事になっています。しかし現在に至るまで、異なる見解を持つ科学者同士の議論は一般に開かれた形では行われてきませんでした。広範な社会領域にまたがる、原子力発電所事故の影響、放射能の拡散による個人と社会への影響に対して、当事者、政策決定者、研究者、NGOなど、関係者らによる放射線防護を目的とした審議を通した社会的意思決定を行うことが必要となっています。
被ばくしている人間の集団、被ばく線量の多い人間の集団は、現在単に放置されるか、あるいは観察の対象となって疾患の発生数が増えていくのを黙って見ているしかありません。公衆衛生を考えていくさいに必要な疫学研究は、冷たい「科学」ではありません。疫学研究の目的を、頻度や原因の究明のみではなく、影響を減らす、防ぐといった健康影響の最少化に役立てていく枠組みにつなげていくことが必要となります。また、惨事を拡大させる社会的影響を減らしたり、防いだりすることに活かしていくことこそが、疫学研究の目的なのです。
放射線防護という課題において「科学」が人間の生きる糧になっていくには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。今年で第5回となる市民科学者会議では、みなさんと一緒になってこの問題について考えます。
初日は科学と芸術との関わりを通して、多様な知の側面に触れながらこの問題に迫ります。2日目は科学としての疫学、生物学的な最新の知見を踏まえた放射線防護対策全般について、そして3日目には社会的な側面からその対策を実現するための言葉、法、倫理について検証します。